随筆 鶏を踊らせるマジシャン

 

 

他人のネクタイを切るマジシャンに会った日、もう一人地元の年配のマジシャンが来ていた。

アクの強そうな印象だった。

こちらにクローズアップマジック(テーブルマジックなど、小さな道具で至近距離で見せるマジック)もするのかと聞かれて「する」と答えると、「明日いい道具を持ってきてやるよ」と言うので、「ありがたいけど、もうたくさん持ちすぎて鞄に入らないから・・」などと適当にかわした。

こんなときに迂闊に何か受け取ると、今度は向こうからあれをくれだの、あのネタを教えろだの言われて高く付くのが目に見えている。(プロ意識の低いマジシャンに限っては)

その日は無難に別れてしばらくこの街に滞在していると、いろいろとこのアクの強そうなマジシャンの噂を聞いた。

他人から借りた道具をそのまま返さずに売ってしまったなど、要は関わってもろくなことがないというものばかりだった。

結局彼と深入りしなかったので自分には実害もなかったが、いろいろ聞いた中で笑わせてくれたエピソードもあった。

ある日のショーで、空の筒の中からカラフルなハンカチがたくさん出てくるという演目で、彼は仕込みのハンカチを忘れてきたのか、ハンカチの代わりに何かに使ったような汚らしい汚れのついた、くしゃくしゃのティッシュを大量に出していた。

どこかのイベントで鶏を連れてきて、これからこの鶏を躍らせますと言って、電気調理台代の上に乗せて籠を被せた。

スイッチを入れると鶏は足が熱いので、片足づつ交互に上げてダンスを始めた。

これはマジックなのか?(苦笑い)

先進国なら炎上ものだが、一応、火傷するほどは熱くない設定にしてあるらしい。

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