随筆 コロンビアの冒険 ブエナ・ベントゥーラ (後編)

随筆 コロンビアの冒険 ブエナ・ベントゥーラ (後編)     前編はこちら

すると公園を挟んで海と反対側の道路からババババババーンと自動小銃が響いた。
そこらで遊んでいた黒人のガキたちが歓声を上げて嬉しそうに銃声のする方へ走っていった。
また苦笑いだった。

遠目に、バイクに二人乗りして走るの警官が見えた。
少し間があり、また銃声が何度か繰り返した。
銃撃戦なのか警官が一方的に撃っているのかよく分からない。
もう銃声は何度も聞いていたし、距離があったので大して緊張もしなかったが、今思うと流れ弾が届く距離だったかも知れない。
こういうことも慣れると麻痺してくる。
因みにコロンビアでは警官も犯罪者もバイクに二人乗りをして、後ろの者が発砲するのがお約束らしい。
だから市民はバイクに乗るときナンバープレートの番号を大きく書いたベストの着用が義務付けられている。

夕飯でも探すか、とまた街の方に戻りメイン道路を歩いた。
中心を通り越してだいぶ外の方にくると中華料理の看板があったのでそれに決めた。
中南米の中華は地元の安食堂より少し高いくらいでがっつり食べられる。
扉を開けると廊下のど真ん中にバイクが留めてあり、その向こうの薄暗い店内に強面の男たちが5人で座っていた。
全員私服。誰一人料理人や接客係の感じがない。
何かシリアスな話をしていたようだったが、いっせいにこちらに怪訝な視線を投げてきた。
こっちも向こうの目つきを見て
「おい、こいつら堅気じゃないだろう」
と顔を見合わせた。一人が強面のまま「座ってください」と言い、メニューを差し出した。
彼らの会話を聞いて
「あれ朝鮮語だろう」
と言いながら、見ると値段が高い。外装も高級店でもないのに並みのコロンビア人が普通に食べにくるような値段には思えなかった。
高い上にまともな料理を作るような店員にも見えないので出ることにした。
「やっぱりいいわ」
と言うと、向こうも他のビジネスで忙しかったのだろう、いやな顔もせずOKと言った。
コロンビアの片田舎の黒人外で、接客する気もない朝鮮系が中華レストランを出している。麻薬、銃器の密輸、人身売買、マネーロンダリング、いろんなビジネスがあるんだろうと二人で話しながらまた夕飯を探した。
実は貧乏外の反対側の海岸に大きな船が発着するコロンビア一の貿易港だと知ったのはこの旅の後だった。
結局、煮豆に焼きバナナともう一品、鶏肉か目玉焼きか何か付いている安いローカルフーズを食べ、外に出たところで急に土砂降りになり、そこらにあったビリヤード場に駆けこんだ。
ビリヤードは貧乏人の娯楽で、トタン屋根も電気も埃まみれ、酔っ払いが床で寝ていて床からビールのすえたような臭いがして、隣で撞いている目つきの悪い奴らがじろじろ見てくる。

やっと雨が上がったので宿へ帰ろうと歩き出した。

道中で5人ほど見てくれの悪い奴らが壁にもたれかかって、こっちが通り過ぎるのをじろじろ見ていた。
黒人とメスチソもいた。
気に留めず歩いたが、連れが、
「あいつら、付けてきてますよ」
と言う。
連れは以前にアフリカで危険な体験をして以来、よく警戒するようになったらしい。
付けてきながらどこかの路地にひっぱりこめるような場所を伺ってるんだろう。
振り返らずそのままの歩きながら
「そうか、あいつらみんな(体型が)へぼそうだったよな、走ったら余裕だろう」
メイン通りからてアスファルトもなくぬかるんでいた。
そのまま少し歩いてから
「ぼちぼち行くか」
と二人で急に走った。
走りながらこの状況がおかしく思えてくる。
「もういいだろう」
案の定相手はついてこれず諦めた。

当初は数日滞在の予定だったがもちろん次の日カリに帰ることにした。
こんなところで一晩過ごすのもごめんだったが。
帰りのバスに乗ると恐ろしいほどスピードを出す。
中南米はどこもバスの事故が異常に多い。
二種免許などなく、もともと不注意な人種なので、転落事故や正面衝突で乗客全員死亡ということもしょっちゅうある。
ぼろいバスで走っていると振動で窓が勝手に開く。それが日が暮れると震えるくらい寒かった。
夜中、カリに着いた。

(カリのアパート)
翌朝、アパートのオーナーがやってるパンや兼カフェに行くと、「旅はどうだった?」というので「最悪だったよ」と答えると、
「そうだろう、あそこは真っ黒だ(好ましくない意味での黒人文化)」
と笑っていた。
「行く前に教えてくれよ」と言うとまた笑ったが、こっちは苦笑いだった。

そこに腰掛けて
「あんなところまで行って安もののご飯食べて、ラシャが敗れてる台でビリヤードやって、強盗と駆けっこしただけか」
と、テレビのニュースを見ていると
『昨日(ブエナ・ベントゥーラに自分たちがいた日)、ゲリラかパラミリタル(自警団)の一団と思われる者が地元のサッカーチームの青年12人を「他所と交流試合に連れて行ってやる」と騙してバンに乗せて連れていきそのまま全員を惨殺した』
と報じた。
グッド・ベンチャー/ブエナ・ベントゥーラ。

(写真 EL DIARIO よりリンク)

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補足

1 『連れ』 = 気心の知れた友達

2 肌の色や貧乏人そのものを見下しているのではなく好ましくない立ち振る舞いや、「きれいな街」を期待していたら「ごみためのような街」で期待はずれだったということを素直に書いています。(私は個々の人を肌の色で差別したこともなく、黒人の友達もいます)

3 中華レストランがマフィアっぽかったというのは自分の受けた印象です。ただのやる気のないレストランだったのかも知れません。

4 ブエナ・ベントゥーラの自分が歩いた範囲はまだ歩けただけましな方で、中南米には他所者が一歩も入れない区域が多く存在します。特にコロンビアは警察権力がまったく機能していない場所がたくさんあり危険です。

5 コロンビアのきれいな海は北のカリブだけだそうです。

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