随筆 ブリテン島のどこかで (後)

ブリテン島のどこかで(後)   前編はこちら

 

その日も、もう夕日が沈みかけた頃、どこかも分からない森の中のY字交差点で降ろされて次の車を探していたが、すぐに日が暮れた。

澄んだ星が見えていたが月も街灯もなかった。 真っ暗な中で手を上げていると、事故か交通規制と思うのか通る車は一度徐行するが、ヒッチハイカーだと分かるとすぐにスピードを上げて通り過ぎて行く。

日本人と分かればまだチャンスはあると思うが、顔もよく見えず不気味なんだろう。

暗くなるころは帰宅時間だったらしく交通量もあったがそれも一時のこと、とうとう車が一台も通らなくなった。

 

風が出てきて体が硬くなる。

どれくらい、誰もいないところでただ突っ立っていたんだろう。

 

もう望みもないな。 と思っていると雪がちらちら舞いだした。

上から降らずに真横から飛んできてそのまま過ぎていく。

壁も軒先もない。

 

こりゃ、まいった。

野宿したら凍えるわ。

 

路もきれいでそのまわりの空き地も整地されていて、シルエットから察するに森も藪ではなく手入れされているようだが、まわりに建物も人の気配もない。

ただずっと向こう、自動車道から外れた森の間に開けた平地に一箇所灯りが見える。

何かも分からないし、闇に溶けて距離も見当が付かない。

 

やれやれ。 だりいけど、行ってみるしかないか。

 

旅が長くなると、危険な状態でも恐怖感より面倒くささが先に立つようになってしまう。

カバンを括り付けたカートを引きずって、とぼとぼ、とぼとぼ歩いた。

だんだん近づいてくると、やはり町や村ではなくただ一軒の建物のだった。

 

庭に入って建物のほんの前まで近づくと、「ユースホステル」と書いてあった。

 

助かった。

 

と思った筈だが、この性分は治らず、その後も無計画で運まかせな旅を続けた。

 

追記

二十代前半のこと。

イングランドの湖水地方だったのか。

記憶は「ユースホステル」という文字が見えた玄関までで、宿に入ってからのこと、夜が明けてどこにいてどんな景色だったのかまったく思い出せない。

車を降りてからの時間も、歩いた距離も果てしなく長かった気もするし、長いと思っただけかも知れない、恐らく当時も分かってなかった。

思い出すと絵本の中のような情景になるが実際はどうだったんだろう。

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