かつてインカ帝国の首都であった街、ペルーのクスコ市の中心地に住んでいた時の自分の体験。
ある日の白昼夢。
仰向けに寝ていると床から黒ずんだ手が出てきて、両肩をすごい力で掴まれた。
本当に痛い。
断末魔のような擦れた叫び声を上げながら、寝ている自分の肩を持ち上げ揺さぶってくる。
現地のインディオたちの言語、ケチュア語だが
「この土地から出ていけ!」
そう言っているのが感覚的に分かる。
息が上がり脂汗が出るほど苦しかったが、
「俺はスペイン人(侵略者)じゃない!」
と声を絞り出し、硬直する体を無理に捻って掴んでくる手を振り払うと夢が覚めた。
当時一つの家を部屋割りでシェアしていて、その同居人がたまたま覗いたら、私は仰向けのまま肩を浮かしてうなされていたらしい。
その翌朝、こんこん音がするので窓の下を見下ろすとうちの家の真下の空き地を掘っている作業員が三人ほどいた。
遺跡が埋もれていることが分かり調査を始めたらしい。
ただの夢といえる。
アボリジニや北アメリカのネイティブアメリカン同様、インカ帝国がどれほど悲しい歴史を辿ったか、クスコに住めばそのことを意識させる材料を日常目にする。
普段の夢と違ったのは、聴覚、視覚、痛覚ともにリアルだったこと。
この夢を思い出すと妙な感覚を覚える。当時のような爪を立てられるような痛みはないが、肩に重りを乗せられるような怠さがくる。
遺跡については、クスコはインカ帝国の首都だったため、京都同様に掘れば何か出るというくらい珍しくないことも否めない。
因みにクスコの街の下には、一般公開されてないインカ時代の迷路のように複雑な巨大地下通路があるらしい。
現地人が言うには都市伝説のたぐいではなく、公然たる事実らしい。
数十年前に数人の欧米人が調査に入ってたが迷ってしまい、数日後に一人だけ戻ってきたが既に半狂乱になっていたという。
「インカ帝国の滅亡」マルモンテル著